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平成22年度

脳内酸化ストレス反応を介した統合失調症の病態・治療機序の解明

九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点・特任助教

(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野 )

加藤 隆弘

みなさま、はじめまして。私は、現在11年目の精神科医で、今年春、レドックスナビ研究拠点(以下、本拠点)に特任助教として着任させていただきました。精神科医の同僚・先輩との席で、新任地での話題になると決まって「レドックスって何?精神科と何か関係あると?」と精神科医の癖である猜疑心を持った目で尋ねられます。そこで私はこう返します。「現時点では妄想と診断されるかもしれないけど、『心が働く上で酸化的ストレス反応をはじめとしたレドックスの制御が重要な鍵となっているはず。僕らが怒ったり、悲しんだりするのもレドックス反応の仕業では』と僕は信じていて、その解明のために研究を始めたのだよ」と。多くの精神新患、殊に、統合失調症は幻覚・妄想を主症状とする代表的な精神疾患で長年様々な研究がすすめられてきましたが、病態機序すら十分には解明されていないのが実情です。私は『統合失調症患者の脳内では何らかの炎症性反応が起こっているに違いない!?』という研修医時代の臨床的直観を元に、ミクログリアという脳内炎症免疫担当細胞に着目した基礎研究を5年前に始めました。活性化したミクログリアはフリーラジカルを放出するのですが、我々は抗精神病薬にミクログリア活性化抑制作用があることを見出し、統合失調症におけるミクログリアを介した病態治療仮説を提唱しています。精神医学は、目に見えない心の世界から、神経細胞・シナプスに至るまで広大な世界を扱う学問です。これからの精神医学研究には、こうした広範な領域を別々にではなく多くの専門家が集い統合的に扱う学際的環境が求められており、本拠点にはまさにそうした環境が備わっています。私は、本拠点において、諸先生方とのコラボレーションを通じて、脳と心の橋渡し研究を推進できればと期しております。そして、本拠点で『心の可視化』という夢を実現したいものです。御指導御鞭撻の程、何卒よろしくお願いいたします。

脳梗塞機能回復過程におけるペリサイトの役割とレドックスによる制御

九州大学病院腎高血圧脳血管内科(医学研究院病態機能内科学)・助教

吾郷哲朗(あごうてつろう)

脳血管では他の動脈血管と異なり内皮細胞間の接着がタイトに形成され,物質の透過が厳密に制限される血液脳関門 (Blood-Brain Barrier=BBB)が存在する。脳微小血管の構造的特徴は,血管内皮細胞を取り巻くペリサイトの存在比率が高いことであり、ペリサイトはBBB形成に重要な役割を果たす。脳虚血時、BBBの構築を維持することは、脳浮腫抑制や神経細胞機能維持の観点からも極めて重要である。また,脳虚血後に生じる血管新生は組織修復・再生に不可欠であるが、この過程においてもペリサイトは重要な役割を果たすと考えられている。

現在,我々のグループではペリサイト機能に注目し、脳梗塞発症後の脳浮腫増悪、修復・再生促進の分子メカニズムについて、マウス脳梗塞モデルを用いた個体レベル、ならびに、ペリサイトを含む各種培養細胞を用いた細胞レベルでの検討を行っている。これまでに,脳梗塞周囲のペナンブラ領域に限局して、PDGF受容体の発現が上昇したペリサイトが集簇することを見出しているが、さらに,ペリサイトにおけるPDGF受容体の発現制御機構、PDGF受容体を介したシグナル伝達が周囲組織に及ぼす効果について検討している。また、我々のグループでは心血管細胞における活性酸素種産生酵素 Nox4 の役割についてこれまで精力的に研究を行ってきたが、その脳虚血病態における役割、PDGF受容体シグナルに与える影響などについても検討している。

微量金属輸送体のユビキチン化による細胞内輸送および機能発現制御機構の解明

九州大学薬学研究院細胞生物薬学分野

藤田 英明

鉄・亜鉛・銅などの生体必須微量金属は、ヘム蛋白質をはじめとする様々な酸化・還元酵素蛋白質のレドックス活性中心として、またZnフィンガー蛋白質をはじめとする様々な金属結合蛋白質の高次構造形成に必須である。偏った食事や取り込みに関わる金属輸送体の遺伝子異常による必須微量金属欠乏症の存在が知られている一方、サプリメント等による過剰摂取や排出に関わる金属輸送体の遺伝子異常による金属の細胞内過剰蓄積も明らかとなってきている。細胞内に蓄積した過剰の金属イオンは活性酸素等ラジカルの産生源となり非常に危険である。細胞内の生体必須微量金属の濃度は主に細胞膜上に存在する金属輸送体の発現量により厳密に調節されている。この金属輸送体の発現量調節機構として転写・翻訳レベルでの制御が知られているが、同時にすでに発現している金属輸送体自身を速やかに分解・排除する機構の存在も重要である。本研究では、生体必須微量金属である鉄・亜鉛・銅の細胞内外への輸送体各種の細胞内輸送制御の分子機構について、『金属濃度依存的な各輸送体のユビキチン化とそれに伴う細胞内局在・分解の制御機構が存在する』という作業仮説を立て、これを明らかにすることにより新しい細胞内微量金属の代謝・動態の分子機構を解明する。さらに得られた研究成果を基に各微量金属の欠乏症・蓄積症の診断法・治療薬・治療法の開発・確立に繋がる研究を目指す。

体外循環中の酸化ストレスを介した血管収縮応答

九州大学大学院医学研究院循環器外科学

安東 勇介

心臓・胸部大血管手術では手術操作のため心停止が必要とされ、その間の呼吸・循環を代行するため人工心肺装置の使用が不可欠である。ところが人工心肺の使用に伴って血管の緊張性制御が障害され、末梢循環不全とそれに引き続く臓器障害や冠動脈スパズム等の有害事象が誘発され大きな問題となっている。この人工心肺中の末梢血管の異常反応は未だ十分に解明されておらず、我々は活性酸素に着目した。すなわち、血液が人工肺・回路等の異物に接することで生ずる白血球をはじめとする血球成分の活性化、血液ポンプ使用による非生理的な無拍動流循環、人工肺による高分圧の酸素負荷、組織の低灌流、血液希釈、低体温などが相まって活性酸素を過剰に発生させ、血管内皮細胞でのNO産生低下や血管平滑筋細胞のCa感受性変化をもたらして末梢血管の異常な血管収縮応答が生ずると考えた。そこで大動物を用いた人工心肺モデルを作成し、人工心肺条件を人為的に変化させた場合の活性酸素の発生状況と血管内皮機能異常および平滑筋の過剰収縮との関連を検証すべく実験を行っている。さらには抗酸化物質の投与が末梢血管の異常反応を防止しうるかを検証する予定である。これにより活性酸素発生の観点からみた人工心肺の至適条件が得られ、末梢循環不全や臓器障害、冠動脈スパズムの予防に役立つことを期待している。

糖尿病性認知症(脳機能障害)の疾患概念の確立と分子機序・治療法の探索

九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点

園田 紀之(そのだのりゆき)

皆さん、はじめまして。今年の4月より本拠点でお世話になっております園田紀之といいます。若手研究者の枠で採用頂きまして研究活動を開始したところであります。私はもともと医学部病態制御内科学(第3内科)の糖尿病研究室に所属しておりまして、高柳教授、井口教授の元で糖尿病に関する研究をこれまで行って参りました。そうした関係で現在、疾患創薬グループと共同で研究を進めております。本拠点で活動を開始して最初に感じたことは研究室間の風通しの良さです。これほどバックグランドが多岐にわたる研究者間で協力しあって仕事を進めることができる環境は世界を見渡してもそうないのではないでしょうか。私自身、国外を含め複数の研究室でこれまで仕事をして参りましたが、これ以上にない大変素晴らしい環境だと感じております。研究テーマは急増する糖尿病患者と超高齢化社会が直面しつつある問題点でもある、糖尿病性認知症の発症機構とその治療法に関するものです。酸化ストレスという切り口でこの問題の本質に少しでも近づいて行けるよう、微力ではありますが頑張っていきたいと思っております。そして世界に発信できるようなオリジナリティーが高く、かつ臨床応用できるような研究を目指しております。今後ともどうか宜しくお願い致します。

レドックス反応が活発な腫瘍関連マクロファージ(Tumor associated macrophage; TAM)を標的とする新しいがん治療創薬研究

九州大学薬学研究院創薬腫瘍科学講座

渡 公佑

炎症やがん間質はがんの血管新生や増大、浸潤/浸潤に極めて重要な役割を果たしている。特に、がん間質の炎症やレドックス反応ががんの悪性進展を促進することに注目し、我々はTAMが血管新生やがんの浸潤/転移に関与することを明らかにしてきた。すなわち、がん間質で炎症や酸化ストレスによるマクロファージの活性化が増殖因子、プロテアーゼ、血管新生/リンパ管新生因子の生産を亢進し、がんの増大や血管新生、浸潤/転移を亢進する新しいメカニズムを発表した。そこで、我々はがん間質で活性化されがんの悪性進展を促進するTAMに注目して、その特徴を明らかにしながら本研究を展開させることにした。

本研究では、TAMに特異性の高いバイオマーカーを同定し、がん間質のTAMを標的とした新しいがん治療戦略の構築を目指したいと考えている。TAMで特異的に発現し、炎症やレドックス反応と緊密に関連するチミジンホスホリラーゼ(TP)、Y-ボックス結合タンパク-1 (YB-1)およびインターロイキン-1 (IL-1)等の我々が見出した候補因子を標的とした阻害剤の抗腫瘍効果について検討する。さらに、これらTAMに特異性の高いレドックスバイオマーカーとがん患者の悪性進展を担う因子との相関の有無についても分子病理学研究を進め、がんにおける炎症やレドックス関連因子の役割を把握する。