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レドックス疾患創薬グループ協働企業:田辺三菱製薬株式会社

グループ横断的な協働研究から糖尿病合併症治療薬を創製                 井上 裕章 <田辺三菱製薬株式会社 研究本部先端医療研究所 所長、理事>

1.会社概要
 田辺三菱製薬会社は2007年10月に田辺製薬社と三菱ウェルファーマ社が合併して誕生した売上高4000億円強の製薬会社です。医療用医薬品を中心とする医薬品の製造・販売を行っており、抗体医薬のレミケード、脳保護剤のラジカットなど、循環器・中枢・免疫・呼吸器・ワクチン・生物学的製剤の分野に主力製品があります。「医薬品の創製を通じて、世界の人々の健康に貢献します」という企業理念の下に、「国際創薬企業として社会から信頼される企業」をめざしています。国内の研究拠点は戸田(埼玉)、横浜(神奈川)、かずさ(千葉)、加島(大阪)にあります。戸田、横浜では創薬シーズの探索、候補化合物の合成・スクリーニングおよび薬理研究、かずさでは薬物動態および安全性研究、加島ではバイオロジクスの研究を行っています。世界に通用する新薬を一日でも早く、一人でも多くの患者さんにお届けできるように、全員が一丸となって創薬研究に邁進しています。

2.レドックスナビ研究拠点における活動
 「レドックス疾患創薬グループ」では、糖尿病合併症治療薬の創薬研究を行っています。井口登與志先生が発見された糖尿病における酸化ストレス亢進機序および高柳涼一先生らの大規模コホート研究で明らかにされたビリルビンの糖尿病血管障害抑制のヒトでのエンビデンスに着目し、糖尿病血管合併症における酸化ストレスの重要性とその制御機序を創薬の視点から明らかにすることで、糖尿病合併症治療薬のシーズ探索を行ってきました。これまでにビリルビン類縁体およびNAD(P)Hオキシダーゼ活性化機序であるキマーゼを標的とした創薬の可能性を追求するとともに、弊社の糖尿病治療薬を創薬ツールとした薬理学的な研究を行っています。糖尿病合併症の病態解析では、本拠点の強みであるグループ間の協働研究を活かして、OMRIを用いた生体レドックスの画像化解析やメタボリックプロファイリングによる生体代謝解析を取り入れています。その他、オープンイノベーションの観点から拠点に蓄積されている知識・技術を創薬に最大限利用する取り組みとして、インフォマティクスを活用した微生物。動物細胞による医薬品生産の効率化に関する研究(培養シュミレーション)を開始しました。企業と大学の研究者間の交流も活発化しており、グループ横断的な協働企業により、画期的な糖尿病合併症治療薬の創製が具現化しつつあります。

3.今後の展開
 世界の製薬企業が抱えている共通の悩みとして研究開発の生産性低下を招いている創薬ターゲットの枯渇と臨床試験の成功率低下の問題があります。前者の問題解決には、アカデミアやバイオベンチャーから新規なアイデアに基づくオリジナリティーの高い創薬シーズの獲得(オープンイノベーション)が必要です。本拠点では、糖尿病合併症を酸化ストレス疾患と捉えて、新たな視点から動物実験による標的臓器の病態解析を進めています。本拠点の7年目までに糖尿病合併症の創薬標的候補(シーズ)の検証を終了し、10年目には臨床候補化合物の取得をめざします。一方、後者の問題解決にはヒトにおける臨床成績(薬理効果、副作用)を予測するバイオマーカーの実用化が急務です。本拠点ではOMRIによる酸化ストレスの可視化、メタボロミックプロファイリングによる生体代謝物の網羅的な検索などの最先端技術の利用が可能であり、これらの技術を用いて糖尿病合併症の動物モデルにおける病態解析を深化させて、創薬標的の発見と検証を進めると共に、臨床成績を予測するバイオマーカーの実用化をめざします。
 「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」事業の目的は、「先端的な融合領域のイノベーションの創製に向けて、実用化を見据えた研究開発を行う産官学連携拠点の形成をめざす」とあります。本拠点の特徴は、生体レドックス反応を「見る、操る、治療する」を合言葉に、グループ横断的な協働研究を促進するしくみが整備され、実際に研究成果が生み出されていることです。大学の優れた研究者と、有用な情報、最先端の技術を共有し、実用化に向けた協働体制が確立されたことは素晴らしいことです。残り5年間で実用化(出口)に向けた成果を具現化するには、参画企業の役割がますます重要になると認識し、身の引き締まる思いです。イノベーティブな研究活動の成功確率は一般的に低いことから、できる限り多くの試行を行うことが肝心です。残り5年間で最大限の成果(価値)を生み出すために、糖尿病合併症治療薬の創製、新規の疾患診断技術の実用化のみならず、未来のヘルスケアを志向した医療ネットワークやレギュラトリーサイエンスに関する情報を学び、世界と戦える新薬の効率的な創製を実現することで、参画企業としての責任を果たしたいと考えています。
 

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