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メタボリック・プロファイリンググループ研究内容

本グループでは、メタボロームデータを利用することの本質が、生命現象の理解を化学構造ベースで進めることであると捉えている。そこで、メタボロミクス技術の臨床応用に向け、医療現場で用いるための疾病細胞診断質量分析システムを基盤とした病態メタボロミクス新領域を確立させることを目標としている。そのためには、いくつかの技術的課題を解決するとともに迅速な分析を可能とする病態−代謝物相関データベースの構築が必要になると考えている。

解決すべき技術課題として、以下の5つを考慮した研究開発を続けている。[i] 疾病細胞診断質量分析システムの構築には、MSイメージング技術を確立することが必要である。さらに、より的確な診断システムの確立には、[ii] MSの感度の向上および [iii] 質量分解能の向上が必須となる。さらに、網羅的な迅速代謝物同定技術の確立に向け、[iv] 標品非依存型構造同定システムを構築する必要がある。この同定システムは、超高分解能質量分析データによる組成式の決定アルゴリズムとハイスループットな高精度MS/MS分析技術およびMS/MSデータベースより構成される。最終的に実際の医療現場での利用を可能とする [v] 信頼性の高い病態−代謝物相関データベースを構築する。このデータベースの迅速な構築に上述の技術が必要となる。

メタボリック・プロファイリンググループでは、当初の3年間を要素技術の開発期間と位置付け、島津製作所と協働で開発を行ってきた。特に、MALDI-MSによる代謝物測定技術の先鋭化を強力に推し進め、超高速メタボリックプロファイリング技術を開発した。本手法では、サンプル調製がほとんど必要無く、さらに分析にかかる時間が従来法と比べ数十分の一に短縮できる画期的手法である(Anal. Chem. (2010) 82, 498)。さらに、本手法を用いることで、細胞に摂動を与えた直後極短時間に起こる細胞内代謝動態を追跡することに成功した(Anal. Chem. (2010) 82, 4278)。これらの技術は、創薬開発の初期におけるハイスループットスクリーニング技術として応用可能である。また、MALDI法を用いた代謝物測定技術を質量分析イメージングに応用することにより、単一細胞から複数の代謝物を検出することに成功し(図1)、組織切片の直接分析により50 μm分解能でのin situメタボロミクスイメージングが可能となった。図2はマウス脳のMSイメージングデータである。現時点で、世界最高水準のものである。また、ラットMCAOモデルにおける脳梗塞進展時における脳内代謝変動の可視化に成功している。

図1  超高感度MALDI-MSイメージングによる単一細胞からの代謝物検出 図2 質量分析イメージングによる生体内代謝物のマウス脳内分布の可視化質量分析による代謝物測定ではマススペクトルから代謝物を同定する場合、標準物質との比較が必要となるため、ほとんどのマーカー候補代謝物ピークは未知のままである。当グループでは、MALDI法による超高速マーカー探索技術を開発すると共に、超高分解能質量分析を行う事で標品非依存的にマススペクトルから一義的に組成式を決定する分析法およびアルゴリズムの開発に成功した(Anal. Chem. (2010) 82, 5887)。